マイホームを計画する際に、土地と建物を両方購入するとなると、かなりの費用がかかります。
予算内で理想通りの住まいを実現したいと思うなら、土地を安く手に入れて、建物にお金をかけるというのも手段の1つ。
そんなときにぜひ知っておきたいのが、浜松市の「大規模既存集落」制度です。
この制度には、2つの大きな魅力があります。
その魅力とは・・・
①「市街化調整区域」でありながら、実家の農地でなくても他人からマイホーム用の土地を買うことができること
②マイホームを建てられる人が限定されているため、市街地に比べて坪単価が格段に安いこと
以上の2つの理由から、
ゆたかな自然環境に恵まれて、子どもをのびのび育てたいという子育てファミリーや、
生まれ育った地元で暮らしたいという方、
両親のいる実家の近くで生活したいという方にはぜひおすすめです!
そこで今回は、「大規模既存集落」について詳しくご説明します。
「大規模既存集落」の前に知っておきたいこと
私たちが住むまちは、山や川などの自然と、工場や住宅、学校などの建物から成り立っています。
しかし、それらの建物を何の規則性もなくやたらに建設すると、まちの秩序が乱れ、自然や住環境に悪影響を及ぼすおそれがあります。
そのため、各都市では、「都市計画法」という制度に基づいて土地の整理や区分けを行うことで、人々が暮らしやすいまちづくりに取り組んでいます。
「都市計画法」では、「市街化区域」と「市街化調整区域」に土地が区分けされています。
①市街化区域とは
すでに市街化されている区域や、これから市街化を促進すべきだとみなされている区域のことです。この区域内であれば、比較的容易に一般住宅を建てられます。
②市街化調整区域とは
農地や自然環境の保護などを理由に、市街化を抑制する区域のことです。基本的に、この区域内に一般住宅を建築することはできません。
ただし、浜松市では、「市街化調整区域」でも一般住宅を建てられる特例を定めています。
実はそれが、「大規模既存集落制度」なのです。
大規模既存集落の意味とメリット
「大規模既存集落」制度とは、「市街化調整区域」内でありながら、マイホーム(持ち家)を建築できる制度のことです。
ただし、誰でも大規模既存集落内にマイホームを建てられるという訳ではありません。
あとで詳しくご説明しますが、購入できる人が限定されています。
だからこそ、土地が安く手に入るのです!
そして、土地が安い分だけ建物にお金をかけられるという訳です。
では実際に、浜松市内のどの地域が「大規模既存集落」に該当するのでしょうか。
詳しく知りたい場合は、浜松市のホームページ内で検索することができます。
下記にアクセスしてご確認ください。
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/tochi/home_tochi/home/kensido/chousei/daikibo.html
大規模既存集落に家を建てられる条件
しかし、「大規模既存集落」に該当する地域であれば、誰でも、どんな建物でも、建てていいという訳ではありません。
「大規模既存集落制度」にはさまざまな条件が定められていて、それをクリアしなければマイホームを建てることができないのです。
このことについては、浜松市役所のホームページ内にリンクされている
★大規模既存集落における自己用住宅の許可基準(PDF:164KB)
に詳細が書かれていますのでご参照ください。
ここでは、その内容をわかりやすくご説明します。
【申請者の条件】
まず、申請する人は、次の項目にすべてあてはまることが条件です。
①大規模既存集落のある「連合自治会区(※1)」内に、昭和47年1月11日以降のべ20年以上住んでいて、現在も1年以上住んでいる人、またはその子どもであること(孫は対象外)。居住歴は、原則的に住民票によって判断されます。
②他にマイホーム(持ち家)を所有していないこと。
③マイホームを建築できる土地を所有していないこと。
※申請者本人が持ち家や土地を持っていなくても、両親が土地を持っている場合は大規模既存集落制度を利用できません。
④住居と生計を共にする家族がいること(世帯を有していること)。つまり、単身者は対象外となります。
※未婚の場合でも条件によっては申請が可能です。ただし協議が必要です。
※1「連合自治区」とは
昭和30年代、旧浜松市で市町村の大合併が行われました。それ以前は各町村がまとまって地域コミュニティを形成していたのですが、それに基づいた単位のことを「連合自治区」といいます。たとえば、初生町、根洗町、三方原町、東三方町、豊岡町、大原町、三幸町の連合自治会区は「三方原地区」、伊左地町、佐浜町、大人見町、古人見町の連合自治会区は「伊佐見地区」です。すべての町はいずれかの「連合自治会区」に属します。
【建築予定地の条件】
①申請者またはその親が住んでいる地域(連合自治会区域)内にある「大規模既存集落」であること。ただし、申請者またはその親は、その地域にのべ20年以上居住していて(昭和47年1月11日以降)、現在も1年以上居住していることが条件です。
②申請者が複数土地を所有している場合には、農地以外の土地を建築予定地として優先すること。
③建築基準法で定められた幅以上の道路(2項道路 ※2)に接していること。道路の幅員が4m未満の場合は、道路の拡幅工事が必要となる場合があり、その分余計にお金がかかってしまいます。そのため、土地を購入する際には注意が必要です。
※2「2項道路」とは
建築基準法第42条第2項で定められた道路。具体的には、幅員4メートル未満の道路のことを「2項道路」と略称で呼びます。
【敷地の条件】
①家を建てる敷地の面積は200㎡以上500㎡未満であること。500㎡を超える土地の場合は分筆(1つの土地を登記簿上で複数に分割して登記し直すこと)が必要です。
②旗竿形状の敷地(間口が狭い通路部分の奥に建物を建てるスペースがある土地のこと)は不可。接道幅(土地が接している道路の幅)は3m以上確保する必要があります。
※建築基準法上では2mの接道義務がありますが、大規模既存集落制度利用の場合は3m以上の接道が必要です。
【建物の条件】
①マイホーム(自己の住居)として使用すること。土地については「自己所有地」だけでなく「借地」の扱いでも建てられます。
②建物の高さが10m以下で、なおかつ2階建て以下であること
③物置は面積が25㎡以下であること(建築確認申請が必要です)
④車庫は面積が30㎡以下であること(建築確認申請が必要です)。ただし、車庫の面積は所有台数に応じて緩和されます。
建物の大きさは、敷地に対して22%の建築面積が必要です。建築面積が足りない場合は、以下の③物置、④車庫を建築面積に加算して条件をクリアしなければなりません。
また、除外申請(農地から宅地に転用する際に必要な申請のこと。詳細は後述)の段階で、建物の大きさや配置が最終決定されていると手続きがスムーズです。
申請にかかる時間
一般的に、土地の地目が「畑・田」という農地の場合、「青地農地」と「白地農地」のどちらに該当するかで申請方法が変わります。それに伴って、申請にかかる時間も異なります。
まず、該当の大規模既存集落が「青地農地」か「白地農地」かを確認しましょう。
確認は、浜松市役所の「農地利用課」に問い合わせるとわかります。
①青地農地の場合
青地農地は、「農業を振興する農地」として法律で定められているので、原則的に農地転用はできません。
そのため、まずは青地農地から除外して(除外申請といいます)、白地農地にできるか確認する必要があります。
中区・東区・西区・南区は農地利用課 農地調整グループ(浜松市役所内)、北区は農地利用課 北部農地利用グループ(北区役所内)、浜北区・天竜区は農地利用課 浜北農地利用グループ(浜北区役所内)でご確認ください。
白地農地に転用できるとなったら、今度は農地から宅地に転用できるかどうかを確認する必要があります。「各農業委員会」でご確認ください。
②白地農地の場合
青地農地のような、除外申請は必要ありませんが、宅地に転用できる農地かどうか確認が必要です。
中区・東区・西区・南区は農地利用課 農地調整グループ(浜松市役所内)、北区は農地利用課 北部農地利用グループ(北区役所内)、浜北区・天竜区は農地利用課 浜北農地利用グループ(浜北区役所内)で確認しましょう。
③それぞれの申請にかかる期間
青地農地の場合、除外申請の受付期間が3月または8月と決まっていて、申請が許可されるまでに半年以上かかります。
※除外申請は、自分の申請分だけでなく浜松市で申請されたすべての除外申請物件について異議申し立てが無ければスムーズに許可されますが、そのうちの1件でも異議申し立てが起きると、その件が解決するまですべての物件の許可が保留されてしまうため、長い期間を要する場合があります。
除外申請が完了後してから農地転用を行うことになりますが、農地転用の申請を行う際には、各自治体の農業委員会が申請の窓口となっています。農地転用の申請は毎月15日が締め切りです。こちらは1か月程度で認可されます。
申請にかかる費用
次に、申請にかかる費用についてご説明します。農地を宅地に転用するには、物件によって該当するものとしないものはありますが、次のような申請が必要となります。
・農地利用計画変更
・都市計画許可申請
・農地法許可申請、届出
・土地改良区転用申請
・農地転用完了報告
・地目変更登記
・分筆登記
・占用許可申請
農地転用の手続きは、素人ではなかなか難しいため、農地法に精通した行政書士に代行を依頼するケースが多いです。費用は、書類上の手続きが簡単な場合は十数万円ですみますが、専門的な知識が必要となる許可申請の場合は高くなります。
たとえば、所有権移転登記や測量、地目変更、分筆、開発許可などが必要となる場合は、数十万円から100万円以上の費用がかかることもあります。
また、前面道路と敷地の間に歩道がある場合は、縁石の有無も注意が必要です。乗り入れ用に縁石が切り下げられていない場合は、出入口部分の歩道の舗装改修も必要になるため、その分費用がプラスになります。
このように、大規模既存集落の敷地を購入する際には、接道要件なども細かくチェックし、購入費以外で費用が発生しないように事前調査をすることをおすすめします。
まとめ
大規模既存集落制度については、対象となる地域の状況に応じて改定されています。
たとえば、以前は大規模既存集落内に営業用の建物を建築するのは違法でしたが、2015年秋の改定により、大規模既存集落内に居住する自営業者については事務所や倉庫車庫などを併設することも可能になりました。
さらに、令和2年4月1日から市街化調整区域における開発許可制度の基本方針の一部が改定されています。
基本方針の中では、大規模既存集落制度が合併前の旧浜松市内の集落のみの適用となっていることから、他の地域との不均衡を生じていることが指摘されています。
また、ミニ開発を助長し、一部において不良な宅地形成にもつながる面もあることから、許可対象者・対象地等の基準の見直しを行う必要があると指摘されています。
ただし、現状の制度が不動産市場に広く浸透しているため、急激な基準変更は市場の混乱を招く可能性があることや、対象地が多いので基準を改正するとなると基礎調査に時間を要することから、今回の見直しについては制度の有効期限について明示するのみにとどめています。
浜松市のホームページの下記のPDFに詳細が記載されていますので、今後の市の方針や詳しい内容を知りたい方はご参照ください。
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/tochi/home_tochi/home/kensido/chousei/documents/r02-4-plan.pdf
このように、「大規模既存集落制度」を利用する場合には、様々な要件をクリアすることが大前提です。
まずは、それぞれをクリアできるか確認してみましょう。
条件をクリアした場合でも、申請時期に注意して打合せを進めていくことが必要です。
農地を複数所有の場合は、希望地以外の農地で建てるように指導が入る場合もあります。
そして、いざマイホームを建てられるとなっても、敷地に対して22%以上の建築面積が必要といった細かな規定もありますのでご注意ください。
申請には時間をかけて辛抱強く取り組む必要がありますが、大規模既存集落制度で土地が手に入れば、その分建物にお金をかけることができ、家族の要望を満たす住まいを実現できます。
特に、ご実家の近くでマイホームを構える予定の方や、生まれ育った地元でマイホームを建てたいとご希望の方は、地元の大規模既存集落をチェックしてみましょう!
中村建設には、これまでに大規模既存集落に家を建てられたお施主さまが大勢いらっしゃいます。
大規模既存集落についてご不明な点やご相談をご希望の際にはお気軽にお声掛けください。
Writer>>>中村建設(株)住宅事業部 家づくりアドバイザー 中村真由美